第5話:主人公の条件

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プロローグ|主役じゃない人

恋愛ドラマには、必ず「主人公」がいる。

それは当たり前のことのように思える。
けれど、ある日ふと、私は思った。

じゃあ、主人公じゃない人は何なんだろう?

脇役。
通行人。
モブ。

誰かの物語の背景。

そのとき、私はまだ知らなかった。
この世界では、本当に主人公が選ばれていることを。

そして、
主人公には“条件”があることを。

第1章|違和感の始まり

きっかけは、ほんの小さなことだった。

カフェで、友人の美咲と話していたときだ。

「ねえ、最近さ」

彼女はスマホをテーブルに置いた。

「恋愛ドラマみたいな出会い、多くない?」

私は笑った。

「多いって、どれくらい?」

「周りで」

彼女は指を折りながら数えた。

  • 偶然の再会
  • 雨の中の出会い
  • 落とし物
  • ぶつかる
  • 同じ席

「なんか、テンプレみたいじゃない?」

確かにそうだった。

この街では最近、
**“ドラマみたいな恋”**が増えている。

それも不自然なくらい。

私はふと、聞いた。

「その恋、みんな続いてる?」

美咲は少し考えて、答えた。

「……ううん」

「むしろ、すぐ終わる」

その言葉が、妙に引っかかった。

第2章|観測ログ

家に帰ってから、私はノートを開いた。

最近の出来事を書き出す。

恋愛の始まり。
偶然の出会い。
運命的な再会。

それらを並べると、
ある共通点が見えてきた。

それは――

必ず一人だけ、物語の中心がいる。

恋に落ちる人。
物語が動く人。
周りが変化する人。

つまり。

主人公。

そして、もう一つ。

主人公にならない人がいる。

何度恋が始まっても
何度出会っても

物語が始まらない人。

私はそのリストを書いた。

しばらくして、手が止まった。

ある名前が、何度も出てくる。

私の名前だった。

第3章|選ばれる人

次の日。

私は例のカフェに行った。

あの人がいると思ったからだ。

黒いコートの男。

何度か見かけていた。
いつも同じ席に座っている。

まるで――

観察しているように。

私は思い切って声をかけた。

「あなた、何してるんですか?」

男は驚かなかった。

ゆっくりとカップを置いた。

「観測」

「……何を?」

「恋愛ドラマ」

私は苦笑した。

「それ、比喩ですよね?」

男は首を振った。

「いいえ」

「本物です」

沈黙。

私は言った。

「この街で起きてる恋、全部、偶然じゃないですよね」

男は少しだけ笑った。

「鋭いですね」

「あなたは主人公候補です」

第4章|主人公の条件

「主人公には条件があります」

男は静かに言った。

「三つ」

私は身を乗り出した。

男は指を立てる。

一つ目。

「恋を信じていること」

「物語を疑わない人」

二つ目。

「行動する人」

「偶然を、運命に変える人」

そして。

三つ目。

男は少しだけ間を置いた。

「物語に飲み込まれる覚悟」

私は聞いた。

「覚悟?」

男はうなずいた。

「主人公になると」

「物語から逃げられません」

「恋が始まり」

「恋が壊れ」

「また恋が始まる」

私は背筋が寒くなった。

「それって…」

男は言った。

「恋愛ドラマですから」

第5章|主人公じゃない人

私はノートを握った。

「じゃあ」

「主人公じゃない人は?」

男は答えた。

「観測者」

私は思わず笑った。

「つまり」

「私はただの観客?」

男は首を横に振った。

「違います」

「あなたは」

少しだけ、声を落とす。

「主人公になれなかった人」

その言葉は、静かに刺さった。

私は思い出す。

これまでの恋。

始まりかけて、終わる。

出会って、消える。

何度も何度も。

男は言った。

「あなたは」

「物語を疑う」

「だから主人公になれない」

私は言った。

「……じゃあ」

「主人公になるには?」

男は笑った。

「簡単です」

「信じればいい」

第6章|選択

カフェを出た。

夜の街。

ネオンが滲む。

私は考える。

主人公。

物語。

恋愛ドラマ。

信じれば、始まる。

疑えば、終わる。

私はスマホを見た。

メッセージ。

知らない番号。

「はじめまして」
「さっき、駅で落とし物を見つけました」

私は笑った。

典型的な展開。

恋愛ドラマの始まり。

私は返信を書いた。

そして、消した。

もう一度書く。

また消す。

もし返信したら。

物語が始まる。

主人公になる。

でも。

それは本当に私の恋?

それとも。

誰かの脚本?

私は空を見上げた。

第7章|主人公

私はスマホをポケットにしまった。

返信しなかった。

その瞬間。

不思議なことが起きた。

世界が少しだけ、静かになった。

まるで。

脚本が止まったように。

そのとき。

背後から声がした。

「なるほど」

振り返る。

あの男。

黒いコート。

男は言った。

「あなたは面白い」

「主人公にならない人」

私は聞いた。

「それって珍しいんですか?」

男はうなずいた。

「とても」

そして。

静かに言った。

「だから」

「あなたは別の役割になる」

第8章|新しい役

「観測者?」

私は聞いた。

男は首を振った。

「違う」

「脚本家です」

私は笑った。

「冗談ですよね」

男は言った。

「いいえ」

「あなたは物語を疑う」

「だから」

「物語を書ける」

私は言葉を失った。

男は続ける。

「この街には」

「恋愛ドラマが溢れている」

「でも」

「脚本家が足りない」

そのとき。

私は気づいた。

これまでの出来事。

出会い。

偶然。

観測。

全部。

物語の素材だった。

第9章|最初の脚本

私はノートを開いた。

白いページ。

ペンを持つ。

何を書こう?

恋?

出会い?

別れ?

男は言った。

「簡単です」

「あなたが見たい恋を書けばいい」

私は少し考えた。

そして。

書いた。

偶然じゃない出会い。

脚本を破る恋。

主人公を選ばない物語。

ペンが止まらない。

私は書き続けた。

気づくと。

街のネオンが揺れていた。

まるで。

世界が。

書き換わっているみたいに。

エピローグ|主人公の条件

数日後。

カフェ。

私はノートを閉じた。

一つの物語が完成した。

そのとき。

スマホが震えた。

メッセージ。

知らない番号。

「はじめまして」

私は少し笑った。

返信を書く。

「こんにちは」

送信した。

その瞬間。

私は気づいた。

主人公の条件。

それは。

恋を信じることじゃない。

物語を疑うことでもない。

本当の条件は――

自分で物語を選ぶこと。

窓の外。

誰かが、ぶつかった。

落とし物。

見つめ合う二人。

私はノートを開く。

次のページ。

タイトルを書く。

恋愛ドラマ。

その下に。

小さく書いた。

脚本:私。

最終回を書いたのは誰?
シリーズ最大のどんでん返し。
恋愛ドラマを作っていたのは
本当にあの人なのか。
第6話:「最終回を書いたのは誰?」を読む

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