第6話(最終話):「最終回を書いたのは誰?」

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プロローグ|終わらない最終回

雨が降り出したのは、駅を出てからだった。

その一文を、私は何度も夢で見ていた。

けれど今回は違った。
そのあとに続くはずの物語が、どこにもなかった。

夢の中で、私は一冊のノートを開いていた。
ページの上部には、はっきりとした文字でこう書かれている。

――最終回

その下は、まっさらな白紙だった。

書かれていない。
書けなかったのか、書かれなかったのかもわからない。

ただ一つだけ、違和感があった。

その白紙を、誰かが“待っている”気がした。

目を覚ますと、机の上に同じノートがあった。

開く。
同じだ。

「最終回」と書かれたページ。
そして、その下は空白。

私は、ようやく理解した。

これは夢じゃない。

――これは、まだ終わっていない。

第1章|消えた脚本

それから私は、これまでの記録をすべて見返した。

ノート。
スマホのメモ。
ログのように書き続けていた日々の断片。

けれど、奇妙なことが起きていた。

重要な場面だけが、消えている。

・初めて好きになった瞬間
・別れを決めた言葉
・誰かが何かを選んだ理由

そこだけ、ぽっかりと抜け落ちている。

まるで、誰かがそこだけ切り取ったみたいに。

ページをめくるたびに、寒気がした。

その中に、一つだけ残されたメモがある。

最終回は、主人公には書けない

私はしばらくその一文を見つめた。

「……どういう意味?」

誰に向けたものでもないのに、問いかけていた。

すると、背後から声がした。

「そのままの意味だよ」

振り返る。

そこに、見覚えのない男の子が立っていた。

第2章|最後の主人公

「君がユイ?」

彼は自然にそう言った。

私はうなずくこともできず、ただ見ていた。

「……誰?」

「名前は、ソラってことにしてる」

“ことにしてる”という言い方に、妙な引っかかりを覚えた。

「ここ、どこかわかる?」

私は周囲を見る。

見慣れた部屋のはずなのに、どこか違う。

空気が薄い。
現実と少しずれているような感覚。

「……わからない」

ソラは小さく笑った。

「じゃあ、ちょうどいい」

「ここは“途中”だよ」

「終わってない物語が、たまる場所」

その言葉に、胸がざわつく。

「最終回、見たでしょ?」

私は無意識にノートを握りしめた。

「……うん」

「白紙だった」

ソラは静かに言う。

「まだ決まってないからね」

「最後の主人公が」

私は思わず聞いた。

「最後の主人公って……誰?」

ソラは少しだけ考えるようにして、答えた。

「まだ、決まってない」

第3章|観測席

気づくと、私は別の場所にいた。

長い通路。
その先に、大きな部屋。

ドアを開けると、そこは“上映室”のような空間だった。

暗い室内。
正面には大きなスクリーン。

映し出されているのは――

私の、過去だった。

雨のカフェ。
ぎこちない会話。
何度も繰り返された出会い。

その一つひとつが、まるで映画のように編集されている。

私は息を呑んだ。

「……これ、全部」

「そう。君の物語」

ソラが隣に立っている。

「でも、ただの記録じゃない」

「ちゃんと“作品”になってるでしょ?」

確かにそうだった。

現実よりも、少しだけ綺麗で。
感情の起伏が、強調されている。

「誰が……?」

その問いに、ソラはスクリーンの奥を指さした。

そこには、小さな机があった。

そして、一人の人物。

背中しか見えない。

第4章|書いていた人

「ようやく来たね」

その人は、振り向かずに言った。

机の上には、無数の紙。

ノート。
原稿。
メモ。
タイトルの一覧。

すべてが、見覚えのあるものだった。

「あなたが……脚本家?」

私の声は、少し震えていた。

その人は、ゆっくりと答えた。

「脚本家でもある」

「観測者でもある」

「でも、それだけじゃない」

その言葉に、背筋が冷たくなる。

「じゃあ……何?」

少しの沈黙。

そして。

「“まとめた人”だよ」

私は意味が理解できなかった。

「恋愛は、自然に起きる」

「でも物語は、誰かが“形にする”」

「始まりも、途中も、終わりも」

その人は、ようやくこちらを向いた。

けれど、顔は見えなかった。

光に隠れている。

「最終回が空白なのはね」

「一人じゃ決められないからだよ」

第5章|最終回の候補

その人は、何枚かの紙を差し出した。

「いくつか考えてある」

一枚目。

――二人は結ばれる。

典型的なハッピーエンド。

二枚目。

――ユイは観測者になる。

終わりではなく、継承。

三枚目。

――すべてが実験だったと明かされる。

世界そのものの否定。

四枚目。

――物語は繰り返される。

終わらない円環。

五枚目。

――読者が選ぶ結末。

私は紙を見つめながら言った。

「……全部、あり得る」

「そう」

「でも、全部“違う”」

私は顔を上げた。

「どういうこと?」

その人は、静かに言った。

「本物の最終回はね」

「誰か一人が書いたものじゃない」

第6章|この恋を終わらせる

私は、彼に会いに行った。

あのカフェ。

雨。

最初と同じ場所。

彼は、何も驚かなかった。

「来ると思ってた」

私は椅子に座る。

少しだけ、息を整える。

「ねえ」

「私たち、何回も出会ってるよね」

彼はうなずいた。

「うん」

「何回も始まって」

「何回も終わった」

私は、少し笑った。

「じゃあ今回は」

「ちゃんと終わろう」

彼は、しばらく何も言わなかった。

やがて、小さく言った。

「それ、初めてだ」

「みんな、続けようとする」

「終わらせないようにする」

私は首を振る。

「違うよ」

「終わらせるから、次が始まる」

沈黙。

そして彼は、優しく言った。

「君が初めてだ」

「最終回を、自分で書こうとしたのは」

第7章|最終回を書いたのは誰?

私はノートを開いた。

白紙のページ。

ペンを持つ。

でも、書けなかった。

そのとき、気づいた。

これは“書く”ものじゃない。

思い出す。

彼の言葉。
ソラの視線。
観測された記録。
編集された場面。

そして、今ここにいる自分。

一つずつが、重なっていく。

私は、ようやく理解した。

最終回は、

  • 主人公だけでは成立しない
  • 観測者だけでも足りない
  • 脚本家だけでも完成しない

全部が揃って、初めて“終わり”になる。

私は、一行だけ書いた。

この物語は、ここで終わる。

そして、少し間をあけて、もう一行。

ただし、終わりだと思うかどうかは、あなたに任せる。

その瞬間、ノートのページが変わった。

書かれていなかった余白に、文字が浮かび上がる。

最終回を書いたのは、誰ですか?

エピローグ|また最初の一文へ

ノートを閉じる。

すべてが、静かになる。

机の上には、一冊の完成した原稿。

タイトル。

――最終回を書いたのは誰?

最後のページをめくる。

裏表紙の裏。

そこに、小さく書かれている。

雨が降り出したのは、駅を出てからだった。

私は、少しだけ笑った。

今度は知っている。

これは、始まりじゃない。

終わりを知った人だけが読む、最初の一文だ。

そして、ふと思う。

この物語を、最後まで読んだ人は。

どこまでが物語で、どこからが現実なのか。

ちゃんと、区別できているのだろうか。

次は、「シリーズ完全まとめ」へ

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